映画『声をあげるということ─性犯罪 刑法改正の記録─』は、性暴力の被害を受けた人々と、性犯罪をめぐる法律の変化を追ったドキュメンタリーです。2026年8月1日から新宿K’s cinemaで公開されます。
タイトルを見て、「重そう」「つまらないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。たしかに、娯楽映画のような派手な展開や、気軽に笑える場面を期待すると、見る人によっては退屈に感じる可能性があります。しかし本作の見どころは、劇的な演出ではなく、被害を受けた人が自分の言葉を取り戻し、社会や法律を動かそうとする過程にあります。
この記事では、映画の内容やテーマを紹介しながら、「つまらない」と言われる理由、反対に「面白い」と感じられるポイント、性犯罪と刑法改正について分かりやすく解説します。
映画『声をあげるということ』はつまらない?まず知っておきたい作品の特徴
性暴力被害者の声を追うドキュメンタリー
本作は、性暴力の被害を受けた人々が、広場や集会の場で自らの経験を語る姿を記録した作品です。語られるのは、被害の瞬間だけではありません。その後に続く恐怖、怒り、孤立、家族との関係、周囲からの無理解など、長く続く苦しみも描かれます。
登場するのは、実父から性加害を受けた女性、職場でセクハラ被害に遭ったシングルマザー、性的マイノリティの当事者、男性の被害者などです。年齢や立場、被害の内容は異なりますが、「自分の意思に反する性的行為を受けた」という経験を出発点に、制度の問題を問いかけます。
5年間にわたる取材の記録
濱地咲季監督は、性犯罪に関する刑法改正を求める人々を長期間にわたって取材しました。一度のインタビューだけでなく、集会や街頭での活動、法律をめぐる議論、当事者同士の交流などを積み重ねています。
そのため、物語は一直線に進むというより、さまざまな人の声が少しずつ重なっていく構成です。大きな事件を中心にした作品ではなく、声をあげるまでの迷いや、声をあげた後にも続く活動を見つめる映画だといえるでしょう。
なぜ「つまらない」と感じる人がいるのか
派手な展開や明快な結末を求めると物足りない
映画には、主人公が困難を乗り越えて勝利するような分かりやすい展開がありません。登場人物が話し合い、集会に参加し、法律の問題を訴え、何度も社会に働きかけるという現実の時間が中心です。
たとえば、2時間の作品の中で大きな出来事が10回起こるタイプではなく、同じテーマについて何度も考え、少しずつ状況が動いていきます。そのため、テンポの速いサスペンスや娯楽作品に慣れている人は、「話が進むのが遅い」と感じるかもしれません。
扱うテーマが重く、気軽には見られない
性暴力や性犯罪の話題には、聞くだけで心が苦しくなる内容が含まれます。自分や身近な人の経験を思い出してしまう人もいるでしょう。映画を見る前から、気分が落ち込んでいる場合や、強い不安を抱えている場合は、無理に鑑賞する必要はありません。
「つまらない」という感想の中には、作品の質ではなく、「内容が重くて見続けるのがつらい」という意味が含まれていることもあります。これは、作品が問題を軽く扱わず、現実に近い形で提示しているからこそ生まれる反応ともいえます。
それでも『声をあげるということ』が面白い理由
知らなかった制度の問題を具体的に知ることができる
本作の大きな魅力は、性犯罪をめぐる法律が、被害者の実感と必ずしも一致していなかったことを知る機会になる点です。
以前の制度では、性犯罪の成立に暴行や脅迫が重視されていました。しかし、実際の被害では、恐怖で体が動かなくなる、相手との力関係から拒否できない、眠っている間に被害に遭う、経済的・家庭的な事情から逃げられないといった状況があります。
つまり、「大声で抵抗したか」「その場から逃げたか」だけでは、同意がなかったかどうかを判断できません。映画は、こうした現実と制度のずれを、当事者の言葉を通して伝えています。
法律が変わるまでの過程が分かる
性犯罪に関する刑法は、長い間、大きな見直しが行われませんでした。その後の改正によって、性犯罪の名称や対象となる行為、被害者の範囲、親告罪の扱いなどが変わりました。
具体的には、男性も性犯罪の被害者として扱われるようになり、口や肛門への性的行為も処罰の対象に含まれるようになりました。また、被害者本人の告訴がなくても起訴できる仕組みになり、親や養親など、監護する立場にある大人が18歳未満の人に性的行為をした場合を処罰する規定も設けられました。
ただし、法改正によってすべての問題が解決したわけではありません。法律の文言だけでなく、捜査や裁判でどのように運用されるのか、被害者が安心して相談できる環境があるのかなど、残された課題もあります。本作は、法律が変わる瞬間だけではなく、変化を求めて声をあげ続けた人々の過程を描いています。
「声をあげる」とは、告白だけではない
性被害について話すことは、誰にとっても簡単ではありません。周囲の反応が怖い、疑われるかもしれない、仕事や家庭に影響するかもしれない、過去を思い出すのがつらいなど、さまざまな不安があるからです。
本作で描かれる「声をあげる」は、カメラの前で被害を告白することだけではありません。集会に参加する、署名を集める、制度について学ぶ、誰かの話を聞く、問題を忘れないようにすることも含まれます。
一人の大きな声ではなく、数多くの小さな声がつながっていく。その積み重ねが社会を変える力になるという点は、本作の重要なメッセージです。
映画を見る前に知っておきたいポイント
性犯罪の判決と「同意」の問題
本作では、被害者が抵抗できなかった状況や、加害者側が「同意があったと思った」と主張した事件が取り上げられます。
ここで大切なのは、沈黙や混乱、抵抗しなかったことが、そのまま同意を意味するわけではないという点です。一般的に、同意とは自由な意思に基づく明確な意思表示を指します。立場の差、年齢差、恐怖、酩酊、睡眠などによって自由に判断できない状況では、単純に「嫌なら拒否できたはず」と考えることはできません。
映画は、こうした判断の難しさを、抽象的な議論だけではなく、実際に声をあげた人々の経験から考えさせます。
鑑賞後に簡単な答えが出ない作品
本作を見終わった後、「法律が変わったから安心」「声をあげればすべて解決する」といった単純な結論には至らないでしょう。被害者が声をあげる負担、周囲の無理解、司法制度の限界など、複数の問題が残されているからです。
しかし、答えが簡単に出ないからこそ、家族や友人、学校、職場で何を考えるべきかを見つめるきっかけになります。映画の内容を誰かと話し合うことで、初めて気づくこともあるでしょう。
よくある質問
『声をあげるということ』は本当に面白いですか?
面白さの感じ方は、映画に何を求めるかによって変わります。娯楽性やスピード感を重視する人には、重く、静かで、つまらないと感じられる可能性があります。一方、社会問題の背景や当事者の声を知りたい人には、考えさせられる内容です。刺激的な面白さではなく、知ることや考えることにつながる面白さを持つ作品です。
性暴力の描写はありますか?
被害の経験や、性犯罪をめぐる裁判・制度の問題が語られる作品です。具体的な描写や証言により、精神的な負担を感じる場合があります。苦手な人は、上映時間や公式の案内を確認し、無理のないタイミングで鑑賞してください。
刑法改正について詳しくなくても理解できますか?
法律の知識がなくても、当事者の体験や社会運動の流れを通じて理解できる構成です。ただし、作品をより深く見るためには、「同意」「暴行・脅迫」「監護者」「告訴」といった言葉を事前に簡単に調べておくとよいでしょう。
一人で見るべきですか?誰かと見てもよいですか?
一人で静かに向き合う見方もできますし、信頼できる人と見て感想を話す方法もあります。ただし、性被害の経験がある人に鑑賞を勧める場合は、「必ず見て」と押しつけないことが大切です。見るかどうか、途中で退出するかどうかは、本人が決められるようにしましょう。
まとめ:つまらないかどうかは、映画に求めるもの次第
映画『声をあげるということ─性犯罪 刑法改正の記録─』は、派手な演出で観客を引き込むタイプの作品ではありません。性暴力の被害者が抱える苦しみ、制度への怒り、法律を変えようとする活動を、長い時間をかけて記録したドキュメンタリーです。
そのため、気軽な娯楽映画を期待すると「つまらない」と感じる人がいても不思議ではありません。しかし、性犯罪の問題を自分には関係のない話として終わらせず、なぜ被害者が声をあげなければならなかったのか、なぜ法律の改正が必要だったのかを考えたい人には、見る価値のある作品です。
「声をあげる」という行動は、勇気だけでできるものではありません。それでも、一人ひとりの経験や疑問が共有されることで、社会の見方や制度が変わることがあります。本作は、その変化が決して突然生まれたものではなく、数多くの声と長い歩みの上に成り立っていることを伝える映画です。
